現在、瀬戸内海では特に窒素が減少しており、播磨灘や大阪湾の西部などでは、その濃度が0.2mg/Lを下回っています。
窒素やりんは、栄養塩として海の生態系に欠かせない物質です。これら海の栄養は多すぎるとプランクトンが増殖し、赤潮の発生やヘドロの堆積など水質悪化の原因となりますが、窒素やりんが不足する貧栄養の状態になると、植物プランクトンが十分に育たないため透きとおった海となり、魚がやせ細ったり二枚貝が育たなくなります。今、瀬戸内海は、魚介類等の生き物が育ちにくい海となってきているのです。
かつては、陸から川を通じてたくさんの栄養が海に流れ込んでいました。しかし、排水規制の強化、農地の減少、下水道の普及、ダムや堰による土砂の流出量の減少など、海に流れ込む栄養は年々減少しています。
瀬戸内海の海水中窒素濃度の変化
1997年
2017年
低濃度
高濃度
広域総合水質調査、公共用水域水質測定を元に、京都大学 藤原建紀 名誉教授再編
兵庫県瀬戸内海の海水中窒素濃度の変化
1997年
2017年
低濃度
高濃度
広域総合水質調査、公共用水域水質測定を元に、京都大学 藤原建紀 名誉教授再編
豊かな海を守り続けるためには、海と陸の間で栄養をバランス良く循環させることが必要です。
ここでは、瀬戸内海を豊かな海に再生するための適切な栄養塩環境の実現に向けた取組、瀬戸内海及び日本海の水産資源を増やすための資源管理の取組などをご紹介します。
かいぼりとは、ため池の水を農閑期の冬場に抜き、底に堆積した泥を取り除くことをいいます。併せて、栄養を豊富に含むため池の水や泥を河川を通じて海へ流すことで、ノリ養殖への栄養塩供給にも役立ちます。
しかし、近年では、農業者の減少や高齢化により実施できないところが増えています。このため、 農業者と漁業者が協力してかいぼりを実施しています。
現在、淡路島や東播磨地域で実施されており、農業者と漁業者の交流にもつながっています。
明石市「新池」でのかいぼり活動
底質環境を改善するため、漁業者が小型漁船で爪の付いた専用の桁(けた)をひき、海底を耕します。
これにより、海底を柔らかくして二枚貝等の底生生物が生息しやすい環境をつくり、また沈殿した栄養塩を海中にまきあげる効果もあります。
桁を下ろす作業を行う漁業者
森から川を通じて運ばれる栄養が豊かな海を育むことから、「豊かな森は豊かな海を作ります」を合い言葉に、平成11年から漁業者による森づくりが行われています。
平成19年からは、一般の参加者も交え、漁業者と交流しながら森林整備を行う「虹の仲間で森づくり」活動を実施しています。
「虹の仲間で森づくり」活動
県内の下水処理施設では、処理水中の窒素濃度を規制の範囲内で増加させる栄養塩管理運転の拡大を進めています。
アオリイカの産卵礁として、山から切り出したウバメガシの枝を束ね、土嚢などで海底に設置しています。ウバメガシの枝が、天敵から卵を守ってくれることで、毎年たくさんの卵から孵化が確認されています。
また、近年減少傾向のマダコでも産卵用のタコつぼを沈め、資源回復を図っています。
アオリイカの産卵礁の設置
将来にわたり持続可能な漁業を展開するため、漁業者は休漁日の設定や小型魚の保護など、自主的な資源管理に取り組んでいます。
ガザミ(ワタリガニ)資源の維持増大を目的に、昭和61年に「ガザミふやそう会」を設立し、卵を持った抱卵ガザミの保護や甲幅長12㎝以下の稚ガザミの再放流活動を行っています。現在では、本県漁業者のみならず、他府県にも同様の取組が広がっています。
イカナゴのシンコ漁では、解禁日の設定や翌年の親魚を確保するための終漁日の決定、漁期中の過剰漁獲を防止するための操業時間の短縮や休漁日の設定など、漁業者が自ら様々な資源管理の取組を協議し、操業を行っています。
再放流する抱卵ガザミ
サワラ漁では、小型魚を守るための網目規制(大きい目合の使用)や、獲りすぎを防ぐための休漁日の設定を行っているほか、漁獲されたサワラの卵を船上で人工授精させ、海へ放流する受精卵放流の取組などを行っています。
但馬の冬を代表する味覚であるズワイガニでは、漁期の短縮、漁獲量の制限、禁漁区の設定、未成熟ガニの採捕禁止など、資源を維持、増大させるための様々な取組が実施されています。
サワラ漁の受精卵放流
瀬戸内海では、海域の特性に応じ、メバル、カサゴ、マダイ、カレイ類などの産卵親魚の保護や稚魚の育成を図る増殖場の造成を積極的に進めています。特に姫路市の家島諸島周辺では、第2の鹿ノ瀬構想と称して、地元の石材を用いた大規模な増殖場を計画的に整備しています。
また、日本海ではズワイガニやアカガレイなどを対象とした沖合増殖場の整備を推進しています。
第2の鹿ノ瀬構想整備 イメージ
水産資源の維持増大のため、県ではマダイ、ヒラメ、アワビ、サザエなど、12種類の水産生物の種苗を生産、育成し適地へ放流する栽培漁業(※)を行っています。令和2年度からは、新たな対象種として、漁場環境改善に効果があると考えられるナマコの試験生産に取り組んでいます。
兵庫県では、瀬戸内海において昭和38年(1963年)に人工生産したマダイの種苗を放流したのが始まりで、昭和57年には兵庫県栽培漁業センター(明石市)を、平成6年には但馬栽培漁業センター(香美町)を整備し、つくり育てる漁業を推進しています。
マコガレイの稚魚
※栽培漁業・・・卵から稚仔になるまでの弱い期間を人間の管理下で育て、これを天然の水域へ放流後、適切な管理を行うことで資源の持続的な利用を図ろうとするもの。
瀬戸内海の現状や豊かな海の再生に向けた取組について、一般の方々に広く知ってもらうため、平成30年に兵庫県漁業協同組合連合会、神戸市、明石市、県で構成される「ひょうご豊かな海発信プロジェクト協議会」を設立しました。
協議会では、海や魚を身近に感じてもらうイベントの開催や水族館での企画展などを通じ、多様な生命を育む「豊かで美しい海」の必要性を発信しています。
須磨海浜水族園での特別展